「非認知能力は幼少期に身につけるべき」というけど、「それはなぜ?」「そもそも非認知の能力って何?」と思っていませんか?
娘の通う保育園のお便りにも「非認知能力」を伸ばす重要性などについて書かれていることがしばしば。
あたり前のことのように使われつつある、この「非認知能力」について、「何となくはわかるけど・・」正確にはわかっていない、という方も実は多いのではないでしょうか。
「非認知能力」とは、IQ(知能指数)や偏差値、テストの結果など数値で測ることのできない能力のことをいいます。
また最近では、特に幼児期に身につけるべき能力として重要視され、この「非認知能力」を伸ばすことが、子どもの将来の人間形成や社会で生き抜く力などに大きく影響することも研究で明らかになってきました。
この記事では、そんな「非認知能力」について
- 「非認知能力」と「認知能力」の違い
- 世界中で注目される理由
- 幼児期に身につけるべき理由
- 「非認知能力」の伸ばし方
など、簡単にわかりやすくまとめています。
この記事を読んでいただければ、一見、難しいようにも思える「非認知能力」が、私たちのとても身近なもので、実はとても簡単な働きかけで伸ばすことができることがわかりますよ。
目次
1.「非認知能力」と「認知能力」の違いは測定や数値化の可否
これからの未来を生き抜く子どもたちに必要なものとして「非認知能力」は、世界中で注目され、幼児期にこの能力を育てることの重要性に目が向けられています。
ここでは「非認知能力」とは、何かということを、しっかりと理解しておきましょう。そのために、まずはその対極となる「認知能力」からみていきます。
「認知能力」とは、
- テスト点数
- 記憶力
- 言語
- 計算
- 勉強から得た知識
など、IQ(知能指数)で測ったり数値化したりできる能力のことです。
幼児なら「文字の読み書き」「数字の理解」「計算」あたりをイメージしていただくとわかりやすいです。
その対極となる「非認知能力」とは、「認知能力」でないもの、つまりは、測ったり数値化できないものということになります。
一例としては、
- コミュニケーション能力
- 挑戦する力
- 感情をコントロールする力
- 立ち直る力
- 自分で考える力
- 人から愛される力
- 相手の気持ちがわかる力
- 柔軟に受けとめる力
- やりぬく力
- 対処能力
- 表現力
- 忍耐力
- 自己肯定感
など、「認知能力」以外のことを広く指し、人格も含みます。一言でいうなら「人間力」「生きる力」ともいえます。
少し前までは、「認知能力」を伸ばすこと=賢い子に育てることだと思われてきました。
ところが、幼児期に読み書きや算数を学んだ子どもと、小学校からスタートした子どもでは、中学校での学力の差がないという事です。つまりは、早々にやっても、しばらくすると追いつかれてしまうのです。
もちろん、「認知能力」は大事なことですが、それ以上に「非認知能力」が重要とされ、それを幼児期に伸ばすことが大事なのです。そして、多くの研究結果から「非認知能力」は「認知能力」に影響を与える、不十分な部分を補うこともわかってきました。
2.「非認知能力」が世界中で注目される理由
「非認知能力」は世界中で注目が高まっていますが、その大きなきっかけとなったのが、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学の労働経済学者、ジェームズ・J・ヘックマン教授が紹介した「ペリー就学前プロジェクト」です。
「ペリー就学前プロジェクト」とは、アメリカ・ミシガン州のペリー小学校付属幼稚園で実施された、経済的に恵まれない子どもを対象に行ったもので、1962年から開始され現在もなお追跡調査が続いているプロジェクトです。
それによると、「ペリー就学前プロジェクト」を受けた子どもは、受けていない子どもに比べて、
- 月収や持ち家率が高い
- 犯罪率や生活保護受給率が低い
という結果が得られているのだそうです。
それに加えて、小学校や中学校以降の学力に大きな差がないということです。このことからも、学力以外の何か、すなわち「非認知能力」がこの違いを生んだと考えられています。
また、もう一つ、世界中のあらゆる問題や課題を解決するためにも必要な能力だと考えられていることも、注目される理由です。地球上では、環境、貧困、差別、難民など難題が山積みです。
「非認知能力」は、このような難題を解決に導く可能性があると考えられているのです。
よりよい未来のために、
- 解決のためのアイディアを出せる力
- 壁にぶつかってもあきらめない力
- 状況判断力
などが不可欠になります。
このようなことからも、先進国をはじめとした世界中から注目され、幼児教育や保育などで「非認知能力」を伸ばすためのカリキュラムが取りいれられています。
3.幼児期が「非認知能力」土台をつくる重要時期
「非認知能力」を身につけるには、幼児期、特に3歳までが重要といわれています。その理由は、幼いころに身につけた能力は、よい影響が長く続くといわれることからです。
就学前に学習経験を積んで、努力することを覚えると、成人後も新しいことに興味を持ち、知識を得ようとする意欲を示す可能性があるのだそうです。
これは、脳の発達とも関係していて、
- 生命の維持
- 危機の察知
- 安心感
- 好き嫌い
などの感覚をつかさどる部分は、おおよそ5歳までに完成するといわれ、特に3歳までは委縮させることなく安定して発達させる大切な時期となります。
また、前章でもふれたヘックマン教授も「5歳までの環境が人生を決める」と提言し、幼児期の教育によって「社会的成功に不可欠な認知能力と非認知能力の両方を向上させることができる」としています。
ただし、幼児期を過ぎていても遅すぎるという事はありません。気づいたときから伸ばす働きかけをはじめることが大切です。
『RIETI(独立行政法人経済産業研究所)』の論文によれば、「非認知能力」は「認知能力」よりも後に鍛えられ、10代後半でも鍛えられるとされています。
(参照)RIETI Discussion Paper Series 14-J-019「幼少期の家庭環境、非認知能力が 学歴、雇用形態、賃金に与える影響」https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j019.pdf
4.「非認知能力」を伸ばす4つのポイント
「非認知能力」の重要性がわかると我が子も伸ばしてあげたいと思いますよね。
一見、難しいことのようにも思いますが、実は身近でとても簡単なことばかりです。そのポイントとなるのが「心の動き」です。「非認知能力」は、この「心の動き」と連動すると考えられています。
ここでは、具体的にそのポイントとなる4つの働きかけをみていきましょう。
無条件の愛情を注ぎ「自己肯定感」を育てる
子どもに無条件で“愛情を注ぐ”というのは、子育てをするうえであたりまえのことのようですが、「非認知能力」を伸ばすうえで重要で不可欠なことです。
無条件で愛されている、いつでも助けてくれるという親からの愛情を感じると、子どもは安心感や信頼感を覚えます。
ママとパパがとるべき具体的なアクション例としては、
- 呼びかけられたらいつも温かくこたえる
- 失敗しても頭ごなしに怒らず励ます
- 不安そうなときは支える
- 泣いているときは寄り添う
などです。
この積み重ねから、子どもの“ありのままの自分でいい”という「自己肯定感」が育まれます。
また、この安心感と信頼感から「がんばってみよう」という前向きな力が生まれ、
- 最後までやり抜く力
- ポジティブに進む力
など、非認知能力のベースが築かれていくのです。
主張を認める「気持ちに共感する」
ママとパパは、子どもの楽しいこと、うれしいこと、悲しいこと、怒りなど、すべてを受け止めて寄り添いましょう。共感されることで、子どもは自分の主張を認めてもらえたと安心をします。
子どもの主張が間違いや不可能なことでも、一旦は、気持ちを受け止めて「〇〇なんだね」とその気持ちに共感してあげましょう。そのうえで、間違いや不可能なことであれば、なぜ、そうなのかを伝えるようにします。これは、イヤイヤ期の対処でも同じですね。
それにより
- さらに意欲がわく
- 気持ちに折りあいをつけて立ち直る回復力
- うまく対処する対処力
などが育まれます。
もしも、どうしてもイライラして共感がうまくできないと感じる場合は、「イヤイヤ期はいつまで?対処のポインは2つ!年齢ごとの対応&具体例7選」で詳しく解説していますので、あわせて読んでみてくださいね。
やりたい!という「好奇心を尊重する」
好きなことは、大人でも誰でも意欲的に取り組むことができ、継続することも可能です。ですから、子どもが興味をもち、楽しいと思うことを尊重し、危険なことでない限り、満足いくまでやらせてあげることが大切です。
例えば、
- 引き出しのものを出す
- 穴に指を突っ込む
- 水道の水で遊ぶ
- ティッシュやトイレットペーパーを引っ張り出す
など、ママやパパからすると「後片付けが大変!」「もったいない」と思ってしまうことですが、満足のいくまでやらせてあげることが理想です。
とはいえ、忙しくて満足いくまでさせてあげられないときもありますよね。そんなときは、代わりとなることやおもちゃとなるものを用意してあげるといいですよ。
例えば、蛇口をひねるのに夢中であれば
- ひねって開けるタイプの容器を渡す
- コーヒー豆を挽くお手伝いをしてもらう
また、水で遊ぶのが楽しいようであれば
- 洗面器とプラスチックのコップを2つ用意してコップからコップに入れ替える遊びをさせる
- 引っ張って遊ぶおもちゃを用意する
など。
一見すると無駄な行動とも思えることもありますが、それらから目には見えない多くのことも学び、経験がつながりを持つことがあります。
私の娘も0歳の時に、興味を持った引き出しや扉のものを全部出すといった時期がありました。それはそれは、見事なまでの散らかしようで、引き出しが空になるまで、毎日、毎日ひたすら出し続けるのです。そしていつしか、その引き出しや扉は自然に開けなくなりました。
後片付けはもちろん大変でしたが、私はその姿がかわいく思えて、出している最中は、危ないものがないか横で見守りながら、眺めていました。写真にもたくさん撮ったので、見返すと懐かしくて、とってもいい思い出です。写真や動画に残すのも、なかなかおすすめですよ。
自分に対する「自信を持たせる」
子どもが「自分ならできる!」「自分ならもっと頑張れる!」などのように自信がつくと
- 意欲的になる
- 根気よく取り組む力
- 最後までやり遂げる力
- コミュニケーション力
などを育むことができます。
そんな風に自信を持たせるためにママやパパがすべき具体的なアクション例は、
- ほかの子と比べない
- 成功体験を増やす
- 結果よりも努力や姿勢をほめ
- 子どもの存在をほめる
などのように、自信が持てるようになるような日常的な働きかけです。
さらに詳しくいうと、成功体験は小さなことでも数多くさせることです。
例えば、
- 靴のマジックテープを留められた
- ブロックを5個積み重ねられた
- 縄跳びを3回飛べた
など、日常の中で小さな成功体験をたくさん積み重ねることです。
このように非認知能力を伸ばすには、子ども自身を尊重し心に寄り添いながら、自主的にやりたくなるような遊びや活動など、環境をつくりサポートしていくことが大切なポイントとなります。これは、モンテッソーリ教育のアプローチがとても有効的ですよね。
あわせて「モンテッソーリ教育とは?6歳までが最重要時期!具体的アプローチも」の第4章『最も大切な時期は6歳まで!カギとなる6つの「敏感期」と具体的アプローチ」も参考にしてみてくださいね。
5.「認知能力」も大切
ここまで「非認知能力」の重要性をみてきましたが、IQ(認知能力)に通ずる力をおろそかにしてよい訳ではありません。「非認知能力」だけを伸ばすのではなく、「認知能力」を伸ばすための環境も大切です。
先にも述べていますが、「非認知能力」は「認知能力」に影響を与える、不十分な部分を補うという関係なのです。
ですから、これまでのような“知識詰め込み教育”ではなく、“動機づけ”や“応用力”が必要ということです。「認知能力」である知識や学力をつけるための動機づけになるのが「非認知能力」であり、また、その知識などを活かす応用力も「非認知能力」になるのです。
さいごに
幼児期のさまざまな経験によって育まれた「非認知能力」は子どもの可能性を広げていくということがよく理解いただけたと思います。
また「非認知能力」は、急速に変わる世の中で生きていく子どもにとって、
- 失敗から学ぶことが上手
- 違う価値観を柔軟に受け止める
- 新しい発想ができる
- 人と協力できる
- 自分で考える
など、「生きる力」「人間力」となる必要不可欠な能力です。
「非認知能力」を伸ばす働きかけは、どれも身近で簡単なことばかりです。難しく考えすぎず、子どもが興味を持てる環境をつくり、チャレンジさせてあげて、我が子もしっかりと伸ばしてあげたいですよね。
何よりも、無条件の愛情を注ぎ、子どもが何かを達成したときには、その結果をほめるのではなく、努力やプロセスをほめてあげるということが大切なポイントになります。
「汚れるからやめて!」「さっきも言ったでしょ」「あ~、ほら失敗したでしょ」などと、子どもを否定したり行動を制限したりするのは論外ですが、一つ一つの行動をほめすぎるのも、口をはさみすぎるのと同じです。
子どもが何かに集中して取り組んでいるときには、そっと見守り、やりきった時にほめるようにしましょう。
また、「非認知能力」は幼児期がベースをつくる重要期ではありますが、10代後半でも十分に伸ばすことのできます。遅すぎるということはありません。気づいたこのときから、はじめましょう。